新国立劇場バレエ団はどこへ行くのか


 新国立劇場による今年12月の『くるみ割り人形』のキャストが、先日発表された。もともとこのバレエ団は、たいていの全幕公演のうちの何日かはゲストが主役を踊っているが、『くるみ』は、過去2回の公演(97年、98年)にゲストが主演したことはなかった。しかし、今回は6公演中2公演が外国からのゲストを招いての公演である。『くるみ』の1ヶ月前に上演される『ラ・バヤデール』で、6日間のうち3日間の主役がゲストによって踊られることと考えあわせて、新国立劇場がゲストへの傾斜を強めているのでは、と心配するのは性急すぎるだろうか。
 私はゲストを絶対呼ぶべきではない、と言いたいのではない。バレエ団所属のダンサーとゲスト双方が刺激しあえて得るところのある、そして、舞台そのものの質も高い、そのような客演もあるはずである。しかし、ここ最近の(すでに終わったものも、今後のも含めて)ゲストの顔ぶれを見ると、どうしてこの人が新国立劇場のこのプロダクションに出演するのか、と疑問を感じざるをえないものが多すぎる(過去に、ダンサーとしての実力に、疑問を感じざるをえないゲストがいたことも否定はしないが、ここではゲストのダンサーとしての実力そのものを問題にしているわけではない)。単にゲストの方が観客が入るから、という新国立スタッフのあまりにも安易な姿勢が透けて見えるのだ。
 国立の名を冠しているとはいえ、全てが税金でまかなわれるわけではない以上、収益を全く無視した劇場運営はできないだろうし、そのためには、少しでも観客数を増やさなくてはならない事情はあるだろう。しかし、それへの方策がゲストを呼ぶということでは、あまりにも短絡的すぎる。
 先頃の新国立劇場『ラ・シルフィード』で深く心に残っていることの1つは、主演の酒井はなさんへの拍手である。酒井さんが登場したカーテンコール時の劇場は、温かくそして盛大な拍手で満たされていた。そこには、観客が我らがプリマを迎えたことの喜びがあった。しかし、酒井さんとて、最初から今の酒井さんだったわけではない。もともと優れた資質をもち、開場当時にすでに知名度が高かったにしろ、今日、酒井さんを輝かせているのは、本人の才能と不断の努力に加えて、この3年間、新国立劇場で主役を踊り続けた経験ではないだろうか。
 バレエダンサーは、舞台の上で大きな役を踊り続けてこそ、その才能を開花させ、より輝きを増すことができるのだ。もともと少ない公演のうちの3分の1から半分をゲストに主演させている新国立劇場のスタッフは、バレエ団所属のダンサーからその機会を奪っていることになる。そこにバレエ団としての発展はあるだろうか。長期的なヴィジョンを欠き、場当たり的にゲストを招いているようにしか見えない新国立劇場は、いったいどこへ行くのだろうか。

(2000.8.20)
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